昆虫と私

子供の頃、夏になると福島にある大叔母の家によく遊びに行きました。特に何かをしに行くわけでもなく、遊びに行ってはダラダラと過ごします。大人たちはそれだけで満足そうでしたが、子供だった私はあまりに暇だったので、外の草むらをうろうろしたり、犬と戯れたり、虫や魚を観察して、ときに捕まえようとしたりしていました。

そこのおじちゃんがとても素敵な人で、私をカブトムシ採りに連れて行ってくれたことがありました。車を走らせ、山か林かわからないところへ向かいます。草木が生い茂るところへ入っていき、ハチに怯えながら、カブトムシやクワガタムシを採集します。そして、それを埼玉の自宅に持ち帰り、ケースに入れて飼うわけです。

ちゃんとした飼い方なんかわかっていませんでした。とりあえずケースに土と木と昆虫用のゼリーを入れていたような気がします。冬を越せた記憶も、幼虫を育てた記憶もありません。最後はどうなったかの記憶すらありません。きっと、本気で飼おう、という気持ちはなかったのでしょう。興味本位で飼育し、所有し、満足していたのでしょう。

それでも、単純に、カブトムシやクワガタムシに魅力を感じていたのは間違いないと思います。他の虫とは違った、特別感や希少感を見出していたのです。

当時の私は。

たぶん、おそらく。

平成28年6月最終日。

一月が終わり、仕事も一段落ついたということで、菅沼さんと近場へ飲みに行くことにしました。その日は若干根詰めていたので、お互い疲れが少し見えていました。ふらふらっと玄関を出て、ちょっと歩いて、足元を見ます。すると、一匹のクワガタムシが、そこにいました。

テンションが上がる菅沼さん。手で掴み、写真を取り出す菅沼さん。「子供(他所の子)にあげたら喜ぶんじゃないか」と言い出す菅沼さん。

そして私は「ああ、クワガタだ」と思ったのでした。

――クワガタはリリースされました。

いつの間にか、私は、できる限り虫に触れたくないと思うようになっていました。たとえ無害とわかっていても、素手で掴むようなことはしなくなっていました。家に入ってきた小さい蜘蛛などは、紙などの上に載せてから外へ放り投げます。てんとう虫などは、ティッシュ越しで掴みます。カメムシなんかは、ガムテープで完封です。その他害虫は、殺虫スプレーを躊躇なく噴射します。

それを悪い変化だとは思っていません。が、単純に、変わったなと思います。

クワガタムシに手を伸ばさなくなった自分。

昆虫に魅力を感じなくなった自分。

ページがバラバラになるほど昆虫図鑑を眺めていた私は、もういません。

ところで、子供の頃から変わらないのが、ハチと毛虫、蛾が嫌いなことです。どれも小さい頃に(些細な)被害にあったことがあります。好きな虫はいなくなっていくのに、嫌いな虫は根強く生き残っているというのも、なんというか皮肉な話ですが、実害からの学習と思えばやむを得ないのかもしれません。

そう思えば、“好き”を学習できなかった結果が今なのかもしれませんね。

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